「年をとったら驚いた」(嵐山光三郎、新講社)

2014/07/16

「週刊朝日」連載「コンセント抜いたか」を加筆構成している。嵐山光三郎の著書は、「西行と清盛」、「不良中年は楽しい」、「現代語訳徒然草」などを読んだことがある。。

  

大学卒業後、編集者として平凡社に入社。「別冊太陽」の編集長も務めた。しかし放漫経営のため会社が経営危機に陥り、仲間と新たに出版社を立ち上げ独立。9年ほど続いた。

彼は50歳までにやりたいこと100をピックアップし、それを成し遂げた。また編集者時代からの人脈や趣味の旅、温泉、料理などを駆使し、その話は中身が濃く豊富で、抱腹絶倒。プロとしての文章力につい引き込まれる。以前、テレビで見かけた単なる「ちょび髭のおっさん」の実態は、人生を深く広く体験し、それを言葉で表現する魅力的な作家である。

「超高速参勤交代」(土橋章宏、講談社)

2014/08/21

浅田次郎の「一路」と同じく、江戸時代の参勤交代を題材にしているが、勧善懲悪のストーリーが痛快だった。すでに映画化もされ、興行成績も良かったらしい。

8代将軍吉宗の時代、貧乏藩・福島湯長谷藩(現在のいわき市)の藩主に五日で江戸城に出仕するようにという命が出る。老中松平信祝(のぶとき)が湯長谷藩の金山を目当てに画策したものだ。藩主・内藤政醇(まさあつ)は、城代家老や忍者、剣術、槍、弓などの猛者7人だけを伴って江戸へ向かう。

情があり腕もたつ藩主、状況判断に長けた家老、かつて東国一と言われた雇われ忍者など8人の活躍でハッピーエンド。藩主の妹・琴や飯盛り女・お咲も作品の面白さを広げる。

「生存者ゼロ」(安生正、宝島社)

2014/08/24

北海道根室半島沖の石油掘削基地で、職員全員が無残な死体となって発見された。その後、同様の状況が道東の標津でも発生する。陸上自衛官、感染学者、生物学者らは被害拡大を防ぐため、軟弱な態度の政府の命令の下、未曽有の危機に立ち向かう。

当初は、原因不明のパンデミック(ある感染症が、顕著な感染や死亡被害が著しい事態を想定した世界的な感染の流行)の可能性が考えられたが、実際は、掘削基地プラットフォームの地下五千メートル地下から掘り出された細菌がシロアリを狂暴化させ、人間が食い殺された事件だった。

主人公らは、それぞれの思いを胸に、プロとしての責任感、判断力、行動力を駆使し、事件の解決を目指す。今、アフリカのエボラ出血熱がニュースになっているが、この事件も決して空想の話とは言えないだろう。

「神秘」(白石一文、毎日新聞社)

2014/09/09

白石作品は初めて読んだ。大手出版社の役員である53歳の主人公は、すい臓がんで余命一年と宣告される。彼は若き編集者時代、電話取材で知った手かざしで人の不幸を直すという女性を覚えていた。彼は一縷の望みを抱いて神戸に転居し、彼女探しを始める。主人公と彼女を取り巻く人間関係の連環、余りにも偶然が重なっていく。そして、舞台は仙台・石巻へ。

裕福な主人公の家族関係や女性関係、意図的ともいえる各登場人物のつながりに多少違和感を覚えるが、この小説のメインテーマは「生と死」。離婚、病気、震災といった題材の中で、主人公の周囲で〈神秘〉としかいいようがない現象が次々と起こるストーリーの展開が面白い。

「あなたの余命は1年です」と言われたら、誰でもたじろぐ。主人公はたじろぎながらも行動を起こす。「されば死を憎まば生を愛すべし。存命の喜び、日々に楽しまざらんや」。徒然草の一節を改めて思い出した。

「ミッション建国」(楡周平、産経新聞出版)

2014/09/12

赤字国債が一千兆円を超えた日本。少子高齢化で人口・労働力が減少、それに伴って税収も減っていく。一方で、介護、医療、年金などの社会保障費は増え続ける。このままでは、日本経済は間違いなく破綻する。

与党青年局長は将来の総理候補。彼はそのような日本の将来を憂い、スマートアグリ(植物工場・IT等を利用した次世代農業)などの第一次産業の振興、MOOC(ムーク、Massive Open Online Coursesの略で、大学などの高等教育機関が連携しインターネットを通じて講義をオンライン公開する取り組み、あるいはそのシステム)による子育ての終わった女性の再就職促進、出産率向上のための保育所付きマンション建設などのアイディアを打ち出し、若き大手IT企業創業者も意を同じくする。

人手不足もあり震災復興は遅々として進まない。目先の公共事業や東京オリンピックに財源を使うことは本当に必要なのか。5兆円もかかるリニアモーターカーの建設も新幹線があれば不要ではないか。環境汚染、不動産バブルの崩壊、シャドーバンキングの破たんで、あと数年しか持たないといわれる中国。そして尖閣問題にからんだ集団的自衛権や憲法改正、アルバイトや派遣社員など不安定な仕事に甘んじる低所得者・・・。本書は、日本の現状を理解するには参考になる。。