「天才」(石原慎太郎、幻冬舎)

2016/11/23

石原慎太郎が「無慈悲に失われてしまった田中角栄という天才の人生」を描く。

高等教育を受けずに総理大臣まで上り詰め、「今太閤」と呼ばれた田中角栄。54歳で総理となり、日本列島改造論を打ち出し、日中国交正常化を果たしたが、58歳でロッキード事件で逮捕収監され自民党を離党した。67歳で脳梗塞で入院。75歳で死亡。毀誉褒貶の人生だった。

首相退任後やロッキード事件による逮捕後も田中派を通じて政界に隠然たる影響力を保ち続けたことから、マスコミからは「目白の闇将軍」の異名を取った。ロッキード事件はアメリカ陰謀説という思いだった。さぞかし無念だっただろう。

「数は力、力は金だ」「俺の目標は、年寄りも孫も一緒に、楽しく暮らせる世の中をつくることなんだ」「有り難てェことだと思わんとダメですよ」「人間の人生を形作るものは何といっても他者との出会いに他ならないと思う」

「ドローンスクランブル」(未須本有生、文芸春秋)

2016/12/23

最新のドローン情報に興味があり、手に取った。しかし途中から会話部分だけの飛ばし読み。小説としての「ハラハラドキドキ」がなく、著者の専門知識を誇るかのようなドローン開発の技術的平淡な経緯説明。防衛省や民間企業などの登場人物の内面的葛藤も描かれていない。

「柳橋物語」(山本周五郎、小学館)

2016/12/25

相思相愛で将来を誓い合った男女の人情物語。男は大工の腕を磨き金を貯めるため、「江戸に帰ってくるまで待っていて欲しい」という言葉を残して大阪へ行く。そのことが主人公おせんの運命を大きく変える。大火、水害、飢饉に翻弄された江戸庶民と同じく、一人残されたおせんもその災難に翻弄され、苦難が続く。多くの人々との出会いの中で薄幸のおせんの生真面目さと自立への思いに胸が詰まる。

この本をきっかけに、最新のベストセラーを読むだけでなく、山本周五郎の作品を改めて読み直すことも2017年のひとつのテーマにしようかと考えた。

        

「金があって好き勝手な暮らしができたとしても、それで幸せとは限らないものだ。にんげんはどっちにしても苦労するようにできている」

        

「浜の甚兵衛」(熊谷達也、講談社)

2016/12/27

明治時代。三陸でのカツオ漁、北海道カムチャッカ沖でのラッコ・オットセイ漁で財を築き、女遊びも堪能する「浜の甚兵衛」の物語。その人生を通して「金銭で解決できないものこそ人にとって重要なものだ」と悟る。金銭で解決できないものとは何か。心の満足、甚兵衛にとって、それは海が見える暮らしだったのかもしれない。

「普通の人間には一生手にできないような金銭を手に入れた。その気になれば、飽きるまで自由気ままに遊び暮らせる。だが、何も満足できていない。何かがいつも足りない。足りないものは銭でなかった。自由な暮らしでもなかった。確かな答えが得られるのであれば、全財産をくれてやってもいい。金銭で解決できないものこそ人にとって重要なものだ」

「自分の力で金ば稼がねえで他人さ頼ってばかりでは、人間、腐っていぐだけだすからな」

        

「江戸を造った男」(伊東潤、朝日新聞出版)

2017/1/5

        

江戸時代の明暦の大火で木曽の材木を買い占め、その後も海運や治水事業で財を成した河村瑞賢。三重の貧農の家に生まれるが、盂蘭盆のうり,なすを見つけてこれを塩漬けにして売ったことで商才が開く。幕命を受け、奥羽の官米を江戸に回送するための東廻り航路、酒田から下関を通り大阪・江戸へ向かう西廻り航路を整備した。両航路が開かれたことで「天下の台所」大阪、大消費都市江戸の繁栄を支える大物流網が整備されることになり、江戸経済繁栄の礎となった。晩年の銀山開発も手掛ける。これらの事業は命がけだったが私心はなかった。

「目先の利にこだわらず、大局観を持ち、互いの利を考える。また己のためでなく、他人のために役立つ仕事をする」

「人が天から与えられた時間には、限りがある。その使い方は、酒を飲もうと遊女を抱こうと、それぞれの勝手だ。だがわいは、わいの時間を世のため人のために使う」

        

「人は死の床に就いた時、何をやってきたかが問われる」