「亡国記」(北野慶、現代書籍)

2015/11/14

東日本大震災から6年後の2017年4月1日、静岡県沖を震源とするマグニチュード8.6の南海トラフ巨大地震が発生。その影響で、静岡浜岡原発が核爆発を起こし、放射能が日本だけでなく、世界に拡散した。日本は北海道をロシア、本州・四国をアメリカ、九州を中国が救援を建前に支配し、一部の日本人が被爆を恐れて国外脱出を図った。主人公も小学1年生の娘と共に韓国、中国、ヨーロッパ、そしてカナダへと放浪の旅を続ける(妻は被爆で死亡)。

南海トラフ巨大地震や首都直下型地震、富士山大噴火は、いつ起こってもおかしくないと言われている。もし、この小説のように2020年の東京オリンピック前に起こったら、日本はいったいどうなるのか。まさに亡国である。著者は国内の人々ではなく、国外脱出を図った日本人をシュミレーションしているが、言いたかったのは「原発の恐ろしさ」「脱原発」である。

「颶風(ぐふう)の王」(河崎秋子、角川書店)

2015/11/14

舞台は福島と北海道。悲劇で始まる馬に関わる明治からの6代の一族を描く。颶風とは強く激しい風の意味。「オヨバヌ」厳しい自然の中で、馬に対する家族の愛情、それが子孫へと引き継がれていく。最終章。畜産大学に通う孫が病床に付す祖母のために、根室沖の小さな無人島へ向かう。その島は、祖母の祖父がやむなく残した馬の子孫が生きていた。

一気に読んだ。この物語の他の小説と違う一族の地道な人生が印象的だった。

「クラウドナイン」(服部真澄、講談社)

2015/11/18

服部真澄。昔、面白く読んだ「龍の契り」、「鷲の驕り」の著者である。その名前に惹かれて本書を手に取った。

すべての血液型に対応し、保存がきき、飛躍的な運動能力与える人工血液、そして宇宙太陽光発電、世界的な気象操作、マイクロ波による電子機器やサーバー破壊能力を持つ人工衛星。この画期的な二つの技術が本書を構成する。ITを中心に多岐のビジネスを展開する巨大企業の総帥は密かに人工衛星開発を進めていた。その目的は宇宙太陽光発電だったが、彼は脳腫瘍で倒れ、意識不明となる。その隙をぬって、同じく開発に携わっていた者が衛星を打ち上げる。読み進めるにつれて、面白くなった。アメリカを舞台にした、エンターテインメント小説。

「悪道 五右衛門の復讐」(森村誠一、講談社)

2015/11/21

シリーズ4作目。本シリーズの主役流英次郎は、本能寺の変のとき、堺に居合わせた家康を、浜松に帰還するまで護衛した伊賀忍者の末裔である。彼の下に天才女医、稀代の剣客、幕府の秘匿暗殺集団の生き残り、掏摸の名人、情報収集役、イルカ使いと変装の名人、圧倒的な疾足を誇る馬らが集まり、五代将軍綱吉(影武者)のお膝元に隠れる凶悪な気配を察知し、護衛役となって悪に立ち向かう。

今回は石川五右衛門の末裔が豊臣家の復興を図るため、豪商の蔵破り、火付けなどを行い、太平の世の人心を惑わし、将軍のお膝元をかく乱するストーリー。それぞれのプロとしての仕事で悪と対決し、事件を解決していく。時間を忘れさせる。

それにしても、著者の森村誠一は昭和8年生まれの82歳。文章を書くことはボケ防止に有効なのだろう。

「小説 新井白石 幕政改革の鬼」(童門冬二、河出書房新社)

2015/11/22

徳川家六代将軍家宣(前甲府藩主綱豊)、七代将軍家継に侍講として仕えた新井白石は、側用人の間部詮房とともに政治改革・正徳の治を進める。白石は知識だけの単なる儒者ではなく、「江戸城の鬼」と揶揄されても、幕府中枢で改革を実践した。しかし、家継が幼くして亡くなったため、吉宗が八代将軍となり、二人は罷免される。その結果、無位の白石に対する周囲の態度は一変し、冷たくなる。まさに菜根譚の「燠(おう)なればすなわち趨(おもむ)き、寒なればすなわち棄つ。人情の通患なり」。白石は「不遇になったとき、初めてまわりの人間の本性、人の優しさがわかった」。その後、吉宗は享保の改革を行うが、白石の存在には一目置いていた。

「人間の行動は、ある固定観念や先入観を持って視座を定めてしまうと、どんなこともしても歪んで受け止められる」