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(41)ボンネットの上の猫

近所の猫が暖を求めて、帰ってきたばかりの車のボンネットの上に乗っている。「雪やこんこ あられやこんこ 降っても降っても まだ降りやまぬ 犬は喜び 庭かけまわり 猫はこたつで丸くなる」という歌があるが、猫だけでなく、犬も本当は寒いのではないか。

それにしても、季節感だけでなく、生活自体が平坦で希薄化していく。子供と大人の日常の感覚は当然異なる。時間に対する意識も違う。時を経れば経るほど周囲の物が新鮮でなくなり、刺激的でなくなってくる。

子供の「びっくり」は情操を養うが、大人の「びっくり」には、平坦で希薄化していく生活の中で打算などの欲望が加わる。

(42)寒中暖あり

今日は2月1日。2月といえば年間で一番寒い時期だが、「寒中暖あり」の日曜日。冬日の曇天が続く中、久しぶりに青空が見えたので近くの春日公園に散歩がてらに行ってみた。ここは一周1.6キロの周回路があり、多くの人がジョギングやウォーキングを楽しむ。幼子を連れた家族、犬を散歩させる女性、少年らも目に入った。

そして、早咲きの白梅が背景の青に映える。あとひと月余りもすれば、春の足音。

(43)聖福寺の鬼瓦

「死にとうない 仙厓和尚伝」(堀和久著)を先日再読して、仙厓が40歳以降晩年まで過ごした博多駅近くの聖福寺に行ってきた。聖福寺は建久6年(1195年)創建された日本最初の禅寺で、開山は栄西禅師。境内には栄西が宋より持ち帰った茶の木も植えてあり、山門には元久元年(1204年)後鳥羽天皇より贈られた「扶桑最初禅窟」の額があった。

境内は広く、大雄宝殿(仏殿)の中は金箔に彩られた釈迦・弥勒・弥陀の三世仏が安置されている。伽藍の鬼瓦も印象的だった。

(44)都府楼跡の梅

3月になった。まもなく春の訪れ。しかし風はまだ冷たい。

二日市に行く用事があったので、思い立って、帰りに都府楼(大宰府政庁)跡の梅を見行くことにした。去年偶然見かけた白とピンクの色がきれいだったからだ。あれから、もう1年が経ったのか。史跡の向う左手に梅林が見えた。芽吹いた桜の木がせせらぎ沿いに並んでいる。この周辺は静かで散策にいい。

(45)春日公園の桜

ニュースによると、今年の桜の満開は去年より三日早いそうだ。自宅から歩いて30分ほどの白水大池公園を一周した。花見目的も兼ねたウォーキングの人も多かった。

その後、春日公園へ。ここも見ごろだ。家族連れらが桜を楽しみ、遊んでいる。春はいい。ソメイヨシノだけでなく、葉が薄緑で花が白の大島桜(?)も咲いている。早春から初夏にかけてが、一年で一番好きな季節だ。

「命あり 今年の桜 身にしみて」(立松和平)

(46)梅雨の風物詩

いつの間にか梅雨入り。今日も小雨が降った。紫陽花は梅雨の風物詩。白、紫、赤、青、ピンクなどの手毬紫陽花やガク紫陽花が庭や軒先に映える。

近年、時の流れの速さを感じる。年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず。親族がなくなったり、久しぶりに知人から連絡が有ったり…。そして紫陽花も色を変え、やがて枯れていく。ああ無常。

(47)原田次郎種直

隣町のミリカローデン那珂川で地元劇団による「岩門城主 原田次郎種直~花若 父を偲んで鎌倉へ上るの段~」を観てきた。平家滅亡後、原田家26代当主原田種直が鎌倉に幽閉され、嫡男の花若が鎌倉へ向かうというストーリー。

二年前にも同じ舞台があったが今回は会場も広くなり、同じ題材ながら内容もレベルアップしていた。印象的だったのは、冒頭の語りの長ゼリフ、藤王役の若い女性の姿勢と声量、今様の一節「遊びをせんとや生れけむ…」を歌う少女の声、ナレーションの声質、そして筑前琵琶の音色・・・。素人ながら出演者全員が役になりきり、それぞれが自分の持ち分を懸命に演じていた。自分たちが暮らす町の歴史を観客に、このような形で伝えることは有意義なことだ。

(48)宗丹木槿

7月の梅雨の合間。白の五枚の一重花に中心が赤い底紅の木槿(むくげ)が目に入った。茶人の千宗旦が好んだことから、「宗丹木槿」と呼ばれるそうだ。底紅の周辺が線状になっているところがいい。

木槿の種類は多い。芭蕉は「道のべの木槿(もくきん)は馬にくはれけり」という句を詠んだが、どんな木槿だったのか。

(49)楽しみは朝起き出でて

ジッ、ジッ、ジッ、ジッ、ジッ、ジッ、ジッ、ジッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・。朝、ひとしきり鳴きたててはやむ、たくさんの蝉の声で目が覚めた。クマゼミ、アブラゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ。種類は分からないが、日が高くなるにつれて、それらの音が重なり合い大きくなっていく。

そして、もうひとつ夏の風物詩と言えば朝顔。去年より一か月ほど早い6月初旬に撒いた種が芽を出し、弦を伸ばし、いくつかの花を咲かせ始めた。しかし炎天下、朝夕に水を与えないとすぐに萎れてしまう。

「楽しみは朝起き出でて昨日まで無かりし花の咲けるを見るとき」(橘曙覧)の心境だが、生物の成長の不思議さ、彼らのただ生きようとするひたすらさを今年の夏も感じている。

(50)焼き場の少年

大野城まどかぴあ図書館のロビーで、戦争写真展が催されていた。パネルに展示された一枚の写真の前で思わず足が止まった。すでに息がないと見える幼子を背に、直立不動のまま前方を見つめる一人の少年。写真説明は、次のように書いてあった。

「焼き場に10歳くらいの少年がやってきた。少年の背中には2歳にもならない幼い男の子が括り付けられていた。少年は焼き場のふちまで進むとそこで立ち止まる。湧き上がる熱風にも動じない。係員は背中の幼児をおろし、足元の燃え盛る火の上に乗せた。まもなく脂の燃える音がジューと私の耳にも届く。炎は勢いよく燃え上がり、立ち尽くす少年の顔を赤く染めた。私は彼から目をそらすことができなかった。少年は気を付けの姿勢でずっと前を見続けた。一度も焼かれる弟に目を落とすことはない。軍人も顔負けの見事な直立不動の姿勢で彼は弟を見送ったのだ」(ジョー・オグネル元アメリカ海兵隊カメラマンの話。小学館「トランクの中の日本」から)

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