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上海の若者は、なぜすぐに会社を辞めるのか 安い労働市場はもはや限界 万博レポート

上海雑感(5) 中国の若者は、なぜすぐに会社を辞めるのか




退職理由は、「よりよい発展空間を求めて」。
「青い鳥」を求め続け、中国の若者は転職を繰り返す。

日本は、かつて、定年までひとつの会社で勤めあげるサラリーマンが多かった。

国民性からか「滅私奉公」という心情があった。

それに応えた「家族主義経営」に象徴されるように、

給与や手当だけでなく、福利厚生、医療や年金制度などの恩恵を受け、

「サラリーマンは気楽な稼業」という戯(ざ)れ歌も流行った。

しかし、高度成長とともに、高学歴化、ビジネスのグローバル化、情報量の増大、価値観の多様化などを理由に、

転職経験者は徐々に増え続け、バブル崩壊後は企業の倒産やリストラの影響もあって、転職経験者が珍しくなくなってきた。

また、大卒新卒者も、入社後3年で30%が退職するという話を聞いて久しい。


歴史的背景や産業構造は日本と異なるものの、中国は今、高度経済成長の真っただ中にある。

08年のリーマンショックによる世界的な経済危機からいち早く脱し、

中国商務省が発表した4月の海外から中国への直接投資額(実行ベース)は、

前年同月比24.7%増の73億4600万ドル(6800億円)だった。

9カ月連続のプラスで、増加率は3月の12.1%より大幅に拡大した。

都市部の最低賃金は前年比15−20%増と大幅に伸び、

国内外のメーカーもサービス業も中国の内需拡大に合わせて国内市場を拡大するための熾烈な競争を続けている。

その結果、即戦力となる転職者の労働市場はますます拡大している。


中国の給与生活者は、知的労働者であれ、技術者やワーカーであれ、5年、10年と同じ職場に勤める人は珍しい。

特に若い人は、早ければ一カ月以内、長くても数年サイクルで転職する。

ちなみに、去年1年間の大学新卒者の退職率は30%だった。

理由はいろいろあるが、最も多いのは、「発展空間を求めて」。

発展空間というのは、帰属意識(愛社精神)が持てたり、

働きがいがあって自分の能力や地位を高めることのできる職場や、より良い環境や待遇の職場を指す。

もっと「発展空間」のある職場があるのではないかと考える20代の若者が、

自己責任を負いながら「青い鳥」を求めるは理解できる。


しかし、「発展空間」を求める心理の裏側は、「現状不満」である。

若者さえ、就職に苦労するようになった現在の日本に比べ、経済発展する中国では、優秀な人材だけでなく、

労働力のニーズは概して高い。

だから、すぐに新しい職場が見つかると考え辞めていく。


「現状不満」の理由は、いろいろ考えられる。

給与などの労働条件が良くない、職場の人間関係がうまくいかない、親しい同僚がおらず孤立感がある、

現在の仕事が適性に合わない、仕事の発展性がない、会社の将来性がない、経営者や上司が信頼できない…。

そして、本人の会社貢献度が高ければ高いほど、会社にとって痛手となる。


日本人はチームワークを大切にする民族であり、中国人は個を大切にする民族であるとよく耳にする。

中国人の職業感には会社(組織)のためという発想はほとんどなく、

日本人以上に「自分の幸せ」、「家族や親せきの幸せ」を優先する。

会社は、その「幸せ」を満たすための一手段にしか過ぎない。

都市部のサラリーマンは、家庭を持ち、ある程度の収入を得るようになると、

「マズローの欲求5段階説」ではないが、安定や安らぎを求め、少しずつ変化することもあるが、

多くの場合、彼らが目指す人生の成功者とは金持ちであり、「拝金主義」と揶揄されることがある。

しかし、豊かになることは古今東西、共通した価値観であり、問題はその手段や過程である。


入社したばかりの従業員は未だしも、ある程度の社会経験を持つ若者や中堅のサラリーマンは、

戦後の松下幸之助、本田総一郎、盛田昭夫らの諸氏に代表される創業者同様、

「拍手起家」(ばいしょうちーちやー、裸一貫から成功した人)のサクセスストーリーに関心を抱く。

そして、経済成長とともに、「自立」を目指し、中国でもベンチャー企業を立ち上げる若者は多い。

しかし、会社の存続期間は平均3年と聞く。
一番の理由は、優秀な社員が辞めていくことだ。


会社存続のためには、人事労務の観点からいえば、

優秀な人材の採用と引き留め(辞めさせたくない)、そして、評価の低い人材の退職(辞めさせたい)が基本である。

会社貢献度の高い優秀な若者を辞めさえないためには、従業員のモラールを高め、定着を図るために、

給与などの報酬だけでなく、彼らを惹き付ける経営者のリーダーシップや経営哲学、人徳、経営理念、

そして、「発展空間」を満たす職場環境作りが不可欠である。