夢は上海にあり 上海の日本人 上海の物価 上海の生活不安
上海の若者は、なぜすぐに会社を辞めるのか 安い労働市場はもはや限界 万博レポート

上海雑感(1) 夢は上海にあり



新旧、貧富、喧騒、そして破壊と創造…。
上海は、それらが錯綜する混沌の中で、変化を続ける。

上海を初めて訪れたのは1994年の2月だった。
けばけばしい南京東路のネオンとモノトーンの街並みが印象的だった。
そして、上海は今、大きく変貌した。

人口2000万人とも言われる上海は、
欲望、野心、夢が渦まく中国屈指のビジネス都市である。
「上海を制する者は中国を制する」とばかりに、
数多くの中国大手企業や世界のグローバル企業が拠点を構える。
かつて、上海は「冒険家たちの楽園」と呼ばれた。 その言葉は今でも生きている。
白手起家(ばいしょうちーじや、無一文から起業し成功を収める人)を夢見る者たちは、
「上海ドリーム」の実現を目指し、さまざまな分野で千載一遇のビジネスチャンスに果敢にチャレンジする。
高さ492mを誇る超高層ビル「上海環球金融センター」に象徴される浦東・陸家嘴地区は2020年、
香港に並ぶアジアの金融センターを目指し、世界中から投資目的の人材とカネを集め続ける。

上海は観光都市でもある。 豫園、外灘、新天地、南京東路…。

世界中から観光客が集まり、 新旧、混沌、喧騒、貧富、破壊と創造に目を見張る。

そして、上海は歴史の街である。
天下為公の孫文、文化大革命の毛沢東、南進講和のケ小平。
中国、そして上海の今は、良かれ悪しかれ、彼ら巨星たちを抜きに語ることはできない。
テレビでは相変わらず旧日本軍を悪者にした抗日ドラマが流れているが、
1920年代以降に建てられた旧租界地や外灘に立ち並ぶ古い建築物群は、
辛亥革命、国共合作、中華人民共和国成立、文化大革命、第二次天安門事件など、
歴史に翻弄された近代中国とともに生き抜いてきた。

タウンウオッチングしていると、
日本では見られなくなった乞食や物乞い(日本にはホームレスはたくさんいるが…)の多さに心を痛める一方、
貧民窟の向こうには超高層ビルが屹立し、
南京西路などの繁華街では不動産成金や新興企業家らの大金持ちをターゲットにした 高級ブランドショップ、
高級外車販売店、五つ星ホテルなどが軒を並べ、
経済発展まっしぐらの豊かさ志向に時代の変化を改めて感じる。
若い女性らはファッション、ヘアメイク、化粧品、ネールサロンに惜しげもなくカネを使い、
庶民は朝から証券会社店頭の掲示板で株価の推移を食い入るように見つめ、 新規マンション購入に血眼になる。
しかし、「金持ちイコール成功者」という拝金主義を否定するわけではないが、
やはり、「少し潤いが欠けているのではないか…」とも思うのは情緒的であろうか。

上海では今、老房子(らおふぁんず)と呼ばれる古い建築物や家屋が、
超高層のマンションやオフィスビルに建て替えられ、
高速鉄道(日本の新幹線のようなもの)、高速道路、地下鉄などの交通網整備も急ピッチで進められている。
インフラの整備はカネの力で国策に基づき時間をかければ改善され、人々の暮らしを便利にするが、
人心の向上はそう簡単にはいかない。

中央政府は社会秩序や社会規範を順守する「文明社会」をめざし、
たとえば、バスなどで弱者に席を譲るケースも多く見かけるようになった。
しかし、列に割り込む、公共の乗り物の中で携帯電話で大声で話す、唾を吐く、
周囲を気にせず口喧嘩する(自己主張しないと生きていけないのだろうが…)、
車が横断歩道で歩行者を無視して突進してくる、むやみにクラクションを鳴らす、などの場面は、
まだまだ民度の低さの一端を実感する。
しかし「衣食足りて礼節を知る」で、豊かになれば、おのずから改善されていくだろう。

上海は、スリ、コピー商品、偽物、海賊版、粗悪品が横行する。
路上では、1枚4元(60円弱)の新作DVDや盗難にあった携帯電話が売られている。
「被害に会い、騙される方が悪い」という悪しき価値観が一部で生きているが、 需要があるから存続しているのだろう。
かつてのコピー商品販売の代表地、襄陽市場が取り壊され、 そこには現在、新たにビルが建設中だが、
立ち退いた商売人たちは市内数か所に分散し、相変わらず営業を続けている。
2002年の中国のWTO加盟を契機に版権管理は少しずつ厳しくなっており、
これらの問題も時間の経過とともにいい方向に向かうだろう。

朝晩や休日の公園に行くと、老人らがベンチに腰をかけたり、散歩しているのを見かける。
一人っ子政策もあり、中国も高齢化社会突入間近だ。
南京東路の雑踏に象徴されるように、 13億人ともいわれる人口の多さは、中国にとってアキレス腱に違いない。
そして、豊かな生活への移行とともに、食料、エネルギーの確保も、国内の課題だけでなく、
世界に多大な影響を与え始めている。

寺院に参詣すると、多くの若い女性らも仏様に向かって三拝している。
何を念じているのか。 古今東西、宗教心は人の心に在り続ける。
無断貼紙や路上に散乱するゴミが翌日には、清掃員の手できれいにされ、その繰り返しが続く。
旅行ガイドブックには、「中国で生水は飲むな」と書かれて久しく、
年間1350万台を超える国内自動車販売数(2009年実績、世界一)は大気汚染をますます悪化させる。
東京をしのぐ大都市・上海のそのような環境問題に、 上海政府は手をこまねいているわけではないが、
改善には、カネと時間、そして人々の意識改革が必要だ。

食の安全、高品質な製品やサービスなどに対する消費者の要求も豊かさに比例して高まっている。
欧米や日本の黄金の日々は終わった。

一方、中国は外資頼みの輸出や自らの知恵と努力などで経済発展し、 自信を持ち始めたかに見える。
輸出だけでなく、内販マーケットの拡大で庶民がより豊かになるだけでなく、
まさに中国が世界の中心と言わんかのように中華思想が世界の覇権を求めて復興しつつある。
しかし、「大国」なるがゆえの解決すべき課題も多く内在しているのを忘れてはならない。

上海は、そのような中国のさまざまな側面を我々に見せてくれるが、
インパクトのある「上海の今」を表現できる写真は、なかなか撮れないでいる。