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1990年代、中国の改革開放政策が本格化し、諸外国が積極的に対中投資を行った結果、
中国は安価な人件費と豊富な労働力を有する「世界の工場」としての存在感を示し始めた。
2000年以降も、WTO加盟を契機に投資環境改善や投資分野の拡大、積極的な外資誘致という中国側の政策に呼応して、
諸外国の対中投資はさらに拡大していった。
しかし、外資系企業が集積する沿海部での労働力不足と人件費の上昇、電力や水等のインフラ不足、
投資や国内需要の一巡、外資優遇税制撤廃の動き、知的財産権保護など制度面の未整備、
政治不安(2005年春、反日デモが発生)、為替リスクの拡大などが要因となり、
2006年以降、一時的に対中投資が減少したこともあったが、
2009年の日系企業の実績は88%が独資で進出、合弁や買収も含んで、世界的にも中国進出は再度増加してきた。
対中投資を後ろ盾に経済発展を続ける中国は、今や「世界の工場」という色合いが薄まり、
13億人をターゲットにした「世界の消費マーケット」へと変化し、対中投資も、かつての製造業中心から、
流通、物流、IT、金融、旅行、広告など幅広い産業に広がっている。
このような対中投資や中国内部の急速な経済成長を背景に、中国で働く日本人も増えている。
中でも、2000万人(一説では、2200〜2300万人、東京は1300万人)の人口を擁する上海は中国で最も日本人が多い都市で、
上海総領事館に正式登録している数は約4万5000人だが、上海には約10万人の日本人が住んでいる、と聞いたことがある。
内訳は、駐在員とその家族、会社経営者、自営業者、現地採用者、留学生、長期出張者らだ。
日本人が集う、いくつかの会合に参加し、多くの人の話を聞いていると、
時期が来ればいずれは帰国する駐在員や留学生だけでなく、
「訳ありの人生」を引きずりながら、上海にたどりついた人、
日本には帰る場所がない、と自嘲気味に話す人、
NHKドラマ「上海タイフーン」の主人公のように、日本での生活を捨て上海で起業した人、
閉塞する日本経済に見切りをつけ、心機一転、上海で新たな人生を切り開こうとしている人、
過去の華麗な職歴を生かし、上海に新たなビジネスチャンスを求めようとする人、
中国人女性と結婚し、中国に骨を埋める決意をした人など、
実にさまざまな人生がある。
中国に来て「現地採用者」という言葉を初めて知った。
「現地採用者」とは主に、中国に進出した日系企業に現地中国で採用された人のことを指す。
給料は、日本の本社から派遣された駐在員に比べ、2分の1から、3分の1と安く、
長くて3年の契約と雇用は安定していないし、
福利厚生やボーナスが駐在員に比べ、劣ったり、なかったりする場合も多い。
若ければ未だしも、中高年で、帰国しても就職できず、
その後の人生が曖昧な人にとっては、将来に不安を感じている人も多いだろう。
現地採用者に比べ、日本の本社から派遣された駐在員は概して恵まれているように見える。
駐在員は現地採用者に比べ、住宅は広く、その家賃も会社負担が多く(家賃だけで、現地採用者の給料を上回ることもある)、
海外勤務手当も含め高給だ。
仮に毎月少なくても1万元貯金したとして年間12万元、5年駐在すると60万元。
1元13円で換算すると約800万円という、日本にいれば、家族を抱えた普通のサラリーマンでは難しいと思える資産が残る。
それだけに、中国語の勉強だけでなく、高価な買い物をしたり、グルメを楽しんだり、と、
日本に帰れば「ただの主婦」にも関わらず、自分は特別と錯覚している駐在員の奥さんに対して、
嫉妬心や嫌悪感を抱く人も多い。
一方、旦那の方は、そのような能天気(?)な奥さんと違い、本社からのプレッシャーに耐え、
1日も早い帰国を夢見て、真面目なサラリーマン生活にいそしむ。
余り表には出ないが、
仕事のストレスに耐えきれず、自殺したり、任期終了直前に過労死した駐在員がいる、と聞いたことがある。
それだけに、仕事のストレス解消だけでなく、孤独な上海生活での気分転換、客の接待など、
日本人を当てにしたKTV(若い女性が接待するカラオケの店)が流行るのも理解できる。
上海に生きる日本人は、それぞれの過去、現在、そして未来を背中に負いながら、悲喜こもごもの日々を送っている。