• <雑感>

    ●次回は、歴史的文化財や自然を中心に、ゆっくり、のんびりと歩いてみたい。

    徳川家康が江戸幕府を開いて以来、日本の政治経済の中心地として発展を続けてきた東京。カラフルで活気があり、江戸情緒を残す国際的ビジネス・観光都市でもある。そして、洗練されたファッション、多様な食文化、スポーツ観戦、音楽や美術などの芸術面でも群を抜く。東京は、過去の歴史と伝統に、最先端のIT産業、近代的高層建築物、整備された交通網、情報の集中と発信なども加え、その豊富な多様性の中で、一瞬も止まることなく、混沌とした新たな渦を巻き続ける。


    東京は、20代から30代にかけて10年余り暮らした。今回は生活者ではなく、「おのぼりさん」としての3泊4日東京再発見の旅。旅の醍醐味は、効率など考えずにあてもなく、ぶらぶらとうろつくこと。そうすれば、そこに生きる人々の生活を肌で感じ、ガイドブックには載っていない偶然の発見や感動に出会うことができる。


    かつて、山谷(さんや)と呼ばれた南千住の簡易宿泊所を拠点に、JRと地下鉄の一日乗車券を利用しながら、歩きに歩いた。携帯電話の歩行計によると、4日間で延べ11万歩(約91Km)。銀座、渋谷、新宿、秋葉原、上野など繁華街の雑踏と喧騒、副都心の超高層ビル群、東京スカイツリー、築地市場、六本木ヒルズ、お台場といった近年の人気スポット、明治神宮、浜離宮、靖国神社、日比谷公園、皇居外苑の閑静な緑など、非日常の場面に貪欲にカメラを向けた。


    そして充実した4日間が、あっという間に過ぎ、再び、静かで変化の少ない生活に戻った。今思えば、あの短い日々は幻想だったのか。


    日本最大の都市・東京の人口は1300万人。それぞれの人が東京ゆえの、他では体験できない多種多様な世界を享受し、変化や欲望、刺激に翻弄されながら、日々の喜怒哀楽を生きている。東京は、青雲の志を抱いた若者、あるいは、ビジネスチャンスや新たな出会いなどを求めて生きる未来志向の人たちにとっては、魅力的な街なのかも知れない。


    しかし一方で、東京人には特に、「まじめに働いている多くの人が、競争に疲れ、差別に泣き、ストレスだけはいっぱい抱え込んでしまい、人間的な心身の健康さを失っていく」(吉村英夫)というネガティブなイメージもある。

    都会に暮らす人々の大半は多分、閑静で自然の多い他地区の人々に比べ、「ヒト、モノ、カネ、時間」に追われて、よりあくせくと働き、生活しているのだろう。あくせく生きることは人間らしいとも言えるが、やはり、現在の自分には「安閑無事」な生活のほうが好ましい。


    中国の古い言葉に「走馬看花(馬を走らせつつ花を見る)」というのがある。今回の旅行は充実はしていたものの、「走馬看花」、つまり、あたふたとせわしいだけの観光旅行でもあった。東京観光は選択肢が多い。次回の東京は、華やかで無機質な人工的街並み、繁華街の雑踏、人気スポットの喧騒をあわただしく見て回るのではなく、東京のもう一つの顔である美術館、神社仏閣、日本庭園など歴史的文化財や自然を中心に、ゆっくり、のんびりと時間をかけて歩いてみたい。