不摂生の末に・・・

健康診断を四年ぶりに受けた。身長・体重測定、血圧、血液・血糖検査、尿検査、レントゲン、エコー、眼・・・。前回までは、酒の飲み過ぎで、γ-GTPが高いことは承知していたが、血糖値が少し高いと言われたことは、ほとんど気にしていなかった。

検診日の最後に、若い医者から尿糖が高いと言われて少し気がかりだった。後日、送られてきた結果を見ると、食事前の血糖値が270、ヘモグロビン・エイワンシー(後述)が11.3とかなり高く(異常値の表示)、「精密検査を受け、治療を要する」との記載。さらに、総コレステロールと中性脂肪の値も高かった(高脂血症)。 糖尿病の場合、喉が渇き、水分を大量に取り、多尿となる傾向がある。確かに、自分も最近そうだった。その他、疲れやすくなったり、場合によっては、手足のしびれも出てくるらしい。

振りかえれば、長年の暴飲暴食。焼酎やビールを毎日のように飲み、油分が多く、野菜や乳製品はほとんど摂らない偏った食事。食べる量も多く、運動も全くしていなかった。不摂生の末に、血管が砂糖漬け !!当然の結果だ。 総合病院へ行き、精密検査を受けると、「糖尿病です」の一言。こうして、2週間の糖尿病教室入院が決まった。

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糖尿病とは

糖尿病とは、血液に含まれるブドウ糖の濃度を表す数値(血糖値)が高い状態を言う。インシュリンというホルモンの量が少なすぎたり、作られなくなったり、その働きが悪かったりするために、血糖量が異常に多くなって、それが原因で、神経障害、腎症、網膜症による失明、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳卒中)など、身体の様々なところに障害が起きてくる病気だ。

具体的には、採血した血糖検査で、空腹時血糖値が 70-110、また、1ー2ケ月間の血糖の平均値であるHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)、4.3-5.8パーセントが正常。(この数値に20をかけると、平均血糖値になる)

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突然、泣き出した

今回の教育入院参加者は、40代から79歳までの男女18名。初めての受講者もいれば、3回目の人もいる。病歴や程度は様々だ。 初日の開講式で、自己紹介があった。各々、自分の糖尿病に至った経緯や現状を話す。60代のある男性が話し始めたと思ったら絶句した。そして、泣いている。

後で、本人から聞いたところ、これまで、定期的に健康診断を受け、かかりつけの病院からも、「異常なし」と言われ安心していた。しかし、たまたま、その病院に臨時で来ていた大学病院の医師の診察を受けたところ、かなり糖尿病が悪化しており、すぐに専門家に見てもらう必要がある、と言われ、今回、入院することになった。

糖尿病になると、三大合併症と言われる糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症のほか、心筋梗塞、脳卒中などを引き起こし、最終的には、壊疽による足の切断、失明、人工透析などに至る。例えば、発症後 10年で6割、20年で7割が糖尿病性網膜症になり、失明は1年に3000人、人工透析は7000~1万人というデータもある。糖尿病は放置すると、それだけ恐ろしい病気でもある。

彼のあの涙は、糖尿病と宣告されたショックと不安、それを見過ごしてきた医者への怒りと悔しさだったのだろう 。

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1日のスケジュール

6時  起床

8時  朝食 食後、30分~60分して、ウオーキング

10時 検温、血圧測定、脈拍測定、便の回数などの問診

12時 昼食

13時 糖尿病教室(糖尿病の基礎知識、食事療法、運動療法、薬物療法など  二時間程度)

18時 夕食食後30分~60分して、ウオーキング

22時 就寝 朝食前及び食後二時間毎に、尿糖を試験紙で測定

適宜に、主治医が診察、血糖検査。必要に応じて、眼科、皮膚科、胃カメラ、CTなどを受診

それにしても、入院生活は本当に退屈だ。

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食事療法は管理が難かしい

一日に必要なエネルギー量は、年齢、性別、身長、体重、活動量、血糖値、合併症の有無などによって各人異なるが、通常、男性で1400~1800Kcal、女性で1200~1600Kcalくらいになる。

ポイントしては、エネルギー量を守りながら、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、身体に必要な栄養素を過不足なく摂ること。

また合併症予防のためには、(1)塩分は控える(2)卵、霜降り肉、バター、ジュース、菓子類など血中脂質の異常に注意する(コレステロールや飽和脂肪酸を多く含む食品、中性脂肪を増やすような甘いものを控える)(3)食物繊維を多めにとる、などに留意する。

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運動療法/歩く

糖尿病の運動療法として、歩行、サイクリング、ジョギング、水泳などの有酸素運動(酸素を十分使いながらする運動)がある。 毎日、食後30分~60分して、体重を測り、歩き始める。時間にして30分~45分、距離にして3~4Kmを早足で歩く。行程に飽きてくると、別の道を歩く。ここに、こんなものがあったのかという新しい発見があって楽しい。帰ってくると少し汗ばんでいる。

運動療法は一種の薬のようなもので、朝夜30分の歩行をすることは、「30分の歩行」という薬を1日2回服用することと考えると、分かりやすい。 運動の最初のうちは、筋肉の中に蓄えられている糖質(グリコーゲン)が利用され、ついで血液中のブドウ糖(血糖)が使われる。しかし、脂肪がエネルギーとして利用されるようになるのは、運動を初めて 15分か20分してから。それまでにやめてしまうと、貯蔵された脂肪はほとんど使われない。

食事療法と同様、運動療法も続けてこそ効果がある。「継続は力なり」だ。

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検査結果に一喜一憂

身長・体重測定から始まり、入院中にいくつかの検査がある。毎日の検温・血圧測定・検尿に加え、耳たぶや腕から採血し、血糖値や血清の状態を見る。検尿は、試験紙で尿糖を測る。尿をつけた試験紙が30秒後、どれだけ変色するか、濃くなればなるほど尿糖は多く、よくない。食事前が陰性(無変色)であっても、食後、変色するので油断ならない。

入院後初期の血糖検査では、血糖値が朝食前空腹時267、朝食60分後424、120分後453、180分後440と、異常に高かった。当然、尿糖値も最悪の4+。担当医から、血糖値が下がらなければ、薬を使用するかも知れないと言われていた。しかし、教室が終わるころには、血糖値は朝食前空腹時90(尿糖は陰性)、食後でも高くて170(尿糖は陰性~+2)と、かなり改善された。食事とウオーキングだけの成果だ。

大事なことは、検査結果に一喜一憂するのではなく、長期にわたり、正常値で安定するような生活を続けること。

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患者たち

大部屋の病室の場合、プライバシーに限界がある。しかし、同じ部屋で生活すると、糖尿病という共通の話題で情報交換ができる。講義やテキストでは得られない、具体的な体験談に説得力を感じる。

Aさんは、72歳。1回目の教育入院は61歳の時、2回目は4年前、そして、今回は、インシュリンを打っている。インシュリンを打つことで血糖値を下げることは出来るが、反面、低血糖の危険性もある。

40代後半のBさんは、38歳の時、初めて入院。今回は、インシュリンを打つ必要に迫られている。時々、手足がピリピリすると言っていた。

女性のCさんは、3年前、足を痛めて続けていた運動をやめた。甘いものも大好き。その結果、2回目の入院を強いられた。

最高齢79歳のDさんは、糖尿病暦30年。結構しっかりとウオーキングしている。

彼らの話から、その人生が垣間見える。Aさんは、15歳で父を、31歳で母を、そして4年前に息子、2年前に妻をなくした。現在は娘夫婦と同居。常に死の不安を抱えている印象を受けた。Eさんは65歳。大手メーカーを定年退職し、経済的にも裕福。毎年夫婦で海外旅行を楽しんでいる。子供たちは、すでに結婚して自立。みんな健康でなんら心配事はない。

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医師も看護師も、よく働く

糖尿病棟には、5人の専門医と延べ20数名の看護師がいる。見ていると、いつ休憩しているのかと思うくらい、本当によく働く。

「皆さん、よく働きますね。10時間くらいですか」と先生に聞くと、「今日は14時間です」という返事。毎日、外来患者の対応や入院患者の回診だけでなく、手術や事務処理などもあって分刻みの忙しさに見える。土日・祭日は一応休みのようだが、当直や予定外の勤務もある。夜勤明けの看護師が帰宅しようとしたとき、「お疲れ様」と声をかけたら、「ぐったりです」と、本当に疲れた様子。 彼らは、患者を選べない。わがままな患者も手の焼ける患者も等しく優しく、そして時には厳しく、接しなければならない。下の世話も嫌がってはいけない。考え方によっては、サラリーマンやOL以上の重労働だ。長期休暇も、あまり期待できない。

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病院は人生の縮図

暇を持て余して、喫煙所にいく。車椅子に乗った老人、足を骨折してギブスをし、杖に支えられた若者、パジャマ姿の少女、一見、健康そうにみえる中年の女性・・・。いろいろな患者が集まって来る。 身なりの整った年配の男性がいた。聞くところによると、入院中の奥さんのそばに付き添うため、毎日、朝来て、夜帰るらしい。「介護に疲れた」と老妻を殺したという悲劇もあったが、家族の健康への願いは誰も同じだろう。

人は生病老死を背負って生きている。 午前中、待合室は外来患者であふれる。同じ病院で、同じ日に、赤ん坊が生まれ、一方で、人が死んでいく。患者たちには、一人ひとり異なった疾病の原因があり、その背景には、一人ひとり異なった人生がある。まさに、病院は人生の縮図とも言える。

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ためになった「教育入院」

もし、あのまま市の健康診断を受けないでいたら、インシュリンを打ち、場合によっては合併症になっていただろう。入院したおかげで、生活習慣の重要性を実感することができた。 退院前、「薬は必要ありません。食事療法と運動療法を続けて下さい」と担当医から言われた。糖尿病は油断すると悪化するが、自己管理をきちんとしてさえいれば、なんら深刻になる必要もない。

無病息災という言葉があるが、糖尿病というひとつの病気を背負っているからこそ、他の重大な病気にならないで過ごせるという「一病息災」の考えを知った。 本音は、今までのように、美味しいものを腹いっぱい食べたい、酒も飲みたい。しかし、今後は、「腹7分」に変わらなければならない。今回の教育入院は、そう言った意味で、生活改善、意識改革の大切さを再認識させてくれた貴重な体験だった。

「健康な長寿は、若い日からの積み重ね。好きなものを好きなだけ食べている今の若い人たちに、私たちと同じような長寿は望めません。現代治療の力を借りても、寝たきりの長寿が関の山です。粗食こそが健康の基本です。」(日野原重明)

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入院前の異常な数値(参考)

血糖値  270 mg/dl (基準値69-109)

HbA1c 11.2% (4.2-5.8)

                         

総コレステロー 255 mg/dl (150-199)

中性脂肪  377 mg/dl (1-149)

これ以外は、一応、基準内数値。

退院後の定期検診では

血糖値   90-120 mg/dl (69-109)

HbA1c  5.3-6.4 % (4.2-5.8)

で、推移している。しかし、油断したら、簡単に元に戻るだろう

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そして10年後。血糖値382が105に!

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