美意識を高める大川内山の伊万里焼

 

博多駅からJRを利用し、昼前、伊万里駅に着いた。予定していた駅の建物内にある「伊万里・鍋島ギャラリー」は、月曜のため、残念ながら定休日。駅からバスで15分ほどの大川内山(おおかわちやま)へ向かった。大川内山は、1660年代頃に鍋島藩の御用窯が築かれた場所。そこで作られた「鍋島」は日本の磁器の中で最も優れたものだった。その伝統や技法は現在でも守り継がれており、およそ30の窯元が軒を連ねている。狭い谷間にレンガ造りの煙突や窯元が立ち並び、その後背に青螺山がそびえる風景は、まるで山水画のようだ。

ちなみに、鍋島藩御用窯で焼かれた焼物を鍋島といい、将軍への献上や諸大名への贈答、あるいは城中用としてのみ生産され、一般市場へ出回ることはなかった。そして、その伝統を受け継いだのが伊万里焼。江戸時代から明治にかけて、伊万里・有田地方の焼物は伊万里港から積み出され、伊万里の地名は焼物の代名詞となった。その当時の焼物が古伊万里だ。

バスを降り、ぶらぶらと歩き始めた。「高麗人の墓」や「藩窯時代の無縁の陶工の墓」と書かれた標識があった。有田や萩と同様、当時、朝鮮半島出身の陶工も働いていたのだろう。バス停横の鍋島藩窯橋には、大きな色絵の壺が飾ってあった。山手に向かって少し傾斜のある坂を上っていくと、「太一郎窯」、「虎仙窯」、「青山窯」など多くの窯元が軒を並べ、色鍋島、鍋島染付、鍋島青磁の磁器を販売していた。中でも、風鈴と馬上杯が気に入ったが、なにせ高い。買うのを諦めた。

伊万里駅へ戻る次のバスまで十分時間があったので、総合展示場に入った。伊万里観光を紹介する映像が大きなテレビ画面で流れていた。伊万里焼、伊万里牛、そして果物が伊万里の代表的な産品のようだ。館内には、多くのさまざまな焼物が展示してあった。

伊万里焼は美意識を高めてくれる。美しい。次回、訪れる機会があれば、「伊万里・鍋島ギャラリー」を観、気に入った焼物を買うことにしよう。

ホスピタリティあふれる民泊「和音」

 

「えっ!ホタル?」民泊3階の部屋から外の夜景を何気なく見ていたとき、ひとつの小さな白い光が、右から左へ浮き沈みしながら動き、すぐに消えていった。後で聞くと、確かにホタルだったようで、もっと奥に行くと多くのホタルを目にすることができるそうだ。この民泊「和音(わおん)」の周辺には小高い山や田んぼ、小川があり、都会にはない静寂と昔と変わらない自然に包まれている。宿の方の説明によると、はや、メダカ、うなぎなどの絶滅種といわれる魚も生存しており、燕やシラサギ、トンビも見かけた。山にはイノシシもいるそうだ。

「和音」は二世代住宅を活用し、昨年(2015年)秋にオープン。現在はご夫婦二人だけで住み、運営されている。最多で5人まで受入れ可能だそうだが、室内はきれいで、設備は整い、清潔で、朝夕の食事も美味しかった。特に印象的だったのは、ビジネスホテルでは決して体験できないご夫婦のホスピタリティ。気遣いがあり、まるで家族のように温かく迎えていただいた。夕方、食事前に「落陽と棚田を見に行きませんか」と誘われ、宿から車で20分ほどの福島地区へ行った。あいにく雲に隠れ、落陽を見ることはできなかったが、伊万里湾の手前に重なる土谷棚田(上の写真は地元カメラマンの方が撮影)は素晴らしかった。そして、海には「いろは島」と呼ばれる大小さまざな島々が浮かび、その雄大な風景を満喫した。

この「和音」は、ネットを見て訪れる外国人客もおり、この日は若い韓国人女性が一人、同宿していた。彼女は、福岡・糸島の海を見たい、有田の陶器市に行きたいということでやってきた。彼女もネットで、この「和音」を見つけたそうだ。たまたま、ゴールデンウィークで東京から帰省していた息子さんが、有田陶器市に行く彼女のために、宿と伊万里駅の間(片道13Km)を車で送迎してくれた。彼女は買ったばかりの有田焼が入った袋を両手に持ち、7時頃戻ってきた。陶器市を楽しんだようだ。また「私は家では不眠症ですが、昨晩はぐっすり寝ることができました」とも言っていた。(彼女は英語はできるが、日本語はできない。スマートフォンの通訳アプリを使って、会話ができた)。最終日には、大川内山にも行くそうだ。

旅は「観て」「食べて」「体験」する、つまり名所旧跡、歴史的文化財、自然環境や都会の喧噪、異文化、その土地の料理や裏通りなどに触れることもひとつの楽しみだが、やはり、その場所での思いがけないハプニングや人との出会いが旅の良し悪しを決める。旅行好きの自分は多様な宿舎に数多く泊まった。しかし、この「和音」との出会いは心に残った。

【参考】民泊「和音」 住所:佐賀県伊万里市黒川町大黒川528番地   電話:0955-27-0110

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帰宅後、伊万里市の公式HPをのぞいてみた。伊万里市は、北部九州の西部に位置し、天然の良港伊万里湾を抱く人口約6万人、面積 255.25平方キロメートルの市域を有する。古くは「古伊万里」の積出港として、また、石炭産業全盛期は石炭の積出港として栄えた。近年では伊万里湾総合開発を軸に大規模な臨海工業団地を造成し、造船、IC関連産業、木材関連産業等の集積により近代的な工業港として発展している。民泊近くの名村造船所では、大型ばら積み船を見た。伊万里港コンテナターミナルも拡充整備が進められている。

大川内山だけでなく、伊万里駅前や伊万里川にかかる橋など、市内随所で「古伊万里文化」の香りが漂う焼物を見ることができ、伊万里が焼物の街であることを実感する。

市の花はツツジ。毎年5月5日には玄海国定公園「竹の古場」で、約一万本のツツジの開花に合わせて開催される。5月5日といえば、こどもの日。車窓から、多くの立派な鯉のぼりを見かけた。祭りやイベントも多い。「春の窯元市(4月上旬)」、「つつじ祭り(5月5日)」、「風鈴まつり(~8月)」、「どっちゃん祭り(8月上旬)」、「納涼花火大会(8上旬)」、「トンテントン祭(10月下旬)」、「いまり秋祭り(10月下旬)」、「鍋島藩窯秋祭り(11月上旬)」などだ。

大川内山